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田名網敬一 『 Tanaami’s Beauty Parade 』

2004年6月14日(月)- 7月10日(土)







 1960年代から70年代に掛けて、田名網が見た映画女優へのオマージュ、その時代の息吹を感じるルネサンス期の名画の再構築等、彼の最も初期の考えを2004年に目の当たりに出来、御紹介出来るのは、私共成山画廊の喜びと申せましょう。


「 Tanaami’s Beauty Parade。 なんと魅惑的なタイトルだろう。そしてこの展覧会はスキャンダラスな話題を振り撒くに違いない。なぜならこの展覧会で田名網敬一は、仮面の下に隠し続けた素顔を晒しているからである。

1960年初頭に始まる彼の活動のなかで、1960年代に展開されたサイケデリックな世界を体現したグラフィック、70年代の実験的な構造映画やアニメーションなどの映像作品、80年代に入ってからの松や金魚対するオブセッショナルな固執を感じさせ、露悪趣味ともいえる絵画、立体作品、そして近年のファッション・ブランド、マリー・クワントやロック・バンド、スーパー・カーとのコラボレーションなどのアート・ワークは広く知られている。しかし今回紹介される1960年代後半から1970年代初頭にかけて描かれたペインティングは、現在では見た事のある者の少ない、彼の作品の中でもっとも神秘に包まれた幻の作品群だろう。なぜなら、彼自身がそれらを封印してきたからである。

何故封印してきたのか?この素晴らしき楽園世界を!この彼が創り出した楽園世界の住人は、ブリジット・バルドー、マリリン・モンロー、エリザベス・テイラー、ジェーン・フォンダといった、制作当時世界を魅了し、現在でも伝説となっている女優たちである。あの時代、映画女優という響きには、確かに特別のものがあった。女優という存在は、時代がかった物言いをすれば、銀幕の向こうの、我々の住む現実世界とは遠く離れた眩いばかりに輝く世界の住人で、彼女たちの名前を言えば、その背後にある、あらゆる文化状況を連想させる時代のイコンだったのだ。その女優たちを、彼は憧れと妄想の極地で、彼の思い描く理想郷の世界の住人にしてしまっている。例えば、マリリン・モンローは大股を開きながらソフトクリームを舐めている。ブリジット・バルドーは胸をはだけウィンクをし、ミッキー・マウスを誘惑している。そしてジェーン・フォンダは鳥となっておどけてみせるといった具合に。画面からは、この冒涜?ともいえる作品を嬉々として創り出した彼の顔が目に浮かんでくる。しかし何故か彼はこれらの作品を長らく封印してしまったのである。

田名網敬一は、常にあらゆるエレメントと同等に、自身の作品も過去の記憶として編集・再構築し、時代の循環のなかで絵画、彫刻、映像、グラフィックとジャンルを横断した活動をしてきた。そして、その多面的で編集的なスタイルこそが彼の独自性を生み出してきたはずである。にもかかわらず、Tanaami’s Beauty Paradeに出品される作品は誰にも見せず、その後の作品のエレメントとしてさえ使ってこなかった。

きっとそれは、生身の田名網がそこにいるからだろう。常に時代の空気を吸い込み、自身の作品の社会性を念頭におき、第三者の視線でクールに作品を制作してきた彼が、ほんの一瞬、自身をそのまま素直に出してしまった恥じらいがこれらの作品を封印させてきたのだろう。きっと彼はこの作品群を、欲望の赴くまま無邪気に描いてしまったに違いない。我々が知っているこれまでの田名網敬一は、彼の仮面であったのだ。」

- 長澤 章生






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